ココロ色4

「気分転換、だよ」


「…へ?」


教室の隅を見つめて色々考えていると突然小鳥遊はそう言った

小鳥遊の存在すら薄れてしまっていて、驚き、間抜けな声が出た



「俺がここにいる理由。聞いたのはそっちでしょ?」

彼は不思議そうな顔をして手に持っていた絵の具を乱雑に放り投げる


代わりに筆を一本手にとりくるくるとそれを回した


「まぁ今更なんだけどさ。

…皐月に言われた通りこの絵全然だめでさ、中間評価めったくそに言われちゃって。
自分でも悪いのは分かってるんだけど…気が滅入っちゃって、ね。」


そこで一旦言葉を止め、はぁっとため息をついた



「皐月はどう?そういうことあったりする?」


眠そうな瞳はさらに細くなって俺を見つめた


「あるある、数えきれないくらい。
評価悪かった絵があって、でももうその時点でそいつはお蔵入りな。

自分の気持ちの状態も大事だよな。
プロならそれすらなんとかできるのかもしんねぇけど俺にはまだ無理かな。」



「そうだね、共感できてよかった。
皐月は優等生だって聞いたから、さ。」


「なんだそりゃ!そりゃないわ、俺に限って」


自分に一番かけ離れている単語に自然に反論してしまった

そんな俺を見て小鳥遊は笑う

教室には小鳥遊のこらえきれない笑い声がかすかに響いて俺の耳に入ってくる



そこではっと思い出して少々早口で告げた

「てかお前の方が優等生なんじゃないのか?
この前描いた絵が気に入られて個展に出展するって聞いたぞ?」


「あぁ…おかげさまで」



同じ専攻の女子たちが騒いでいたのを聞いたことがある

自分は間近で見たことはないが、写真を見せてもらった


違う専攻でも、全く日本画のことを知らなくても、


ただただすごいと思った


構図もそうだが、色合いが日本画独特でありながら自分の持ち味をにじませていて、当時見たこともなかった小鳥遊の顔をなんとなく想像した



今日この教室に入った時、絶対にこいつは小鳥遊だと思った


あんな絵を描けるのは絶対にこいつだ、と。


「うん。でもね、それはとても嬉しいことだけど」


あの絵を思い出して熱が上がったと感じたが、一方小鳥遊は数段熱が下がったようだ

「だけど…なんだよ?」


そう聞き返すと一度手に持った筆に目を落とし、またくるくると回した後こちらを見て言った



「あれは自分で描いた気がしないんだ。いや、描いたんだけど




一枚の絵に魅せられてね。








そう、皐月の絵に。」